平坦な地形を特色とする天津の人々の最大の足は自転車。朝と晩の通勤ラッシュ時、車の数を大きく上回る数の自転車がまるでヌーの大群のように一定方向に向かって走っていく様子は、日本では絶対に見られない光景であり、日本で紹介されている中国そのものといった感じです。ただここ1〜2年の間に、そうした光景に少し「異変」が見られるようになりました。「自転車をこがない人」が増えたのです。回りくどい言い方をしましたが、つまり「電動自転車」がここ数年でずいぶん普及し、全自転車の中に占める割合が明らかに大きくなったのです。
「電動自転車」は日本にもあるのでここで説明する必要もないかもしれませんが、電気の力を借りて動く二輪車両です。が、原付とは違って外見は明らかに自転車で、とうぜんペダルが付いています。自転車なので免許も必要ありません。ですが、これがあなどれない乗り物で、原付に匹敵するくらいのスピードが出ます。「電動自転車」が増えたことによって、時速10キロ未満の自転車の流れが確実に高速化、かつ不均一化しています。これはとても危険なことです。
そもそもあれだけたくさんの自転車がさしたる事故も起こさずに整然と走り続けられる原因は、走行している自転車の性能がほとんどすべて同じで、またペダルが重い、ブレーキの効きが悪いなどの理由からみなスピードが出せないためです。みんなが同じようにノロノロ運転をしているので、万が一自転車同士が接触したとしても、救急車が出動するなどといった大事に至ることはほとんどありません。実際“アリさんとアリさんのゴッツンコ”レベルの接触事故は日常茶飯事です。ですが、接触の衝撃があまり強くないので怪我人が出ることはなく、接触した当事者同士はケロッとして、倒れた自転車をそのままに「お互いが悪い」と責任の擦り付け合いで口論となります。その周りを暇を持て余している野次馬たちが取り囲んで、まるで魚市場の競りのように盛り上がるのです。
ところが昨今は、電動自転車の台頭によって、自転車総ノロノロ運転という暗黙のルールが破られつつあります。電動自転車に乗っている人は、これ見よがしに原付に近いくらいのスピードを出して普通の自転車を追い抜いていく上、自転車の認識に立っているので、安易に信号無視をしたりします。もし電動自転車が接触事故を起こしたら、当事者たちは無キズでは済まないでしょう。そうした危険度の高さとその認識の低さが往々にして見て取れるので、ちょっとコワイなあと感じています。
また自転車と言えば、一時期自転車窃盗団が横行していました。わたしととんぱ大王もその被害者の一人で、わたしは昨年5月カルフールで買ったばかりの新品の自転車をたった5日で盗まれました。アパートの前の駐輪場にカギを2つ付けて止めておいたのに全く無意味でした。無惨に壊されたチェーンタイプのカギだけが現場に落ちていました。ああ、思い出してまたブルーになってきたのでこのへんでやめておきますが、ほんと自転車は窃盗団のターゲットになったらどんなカギを付けていようと100%持って行かれます。そして、100%再び戻ってくることはありません。