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Root No.18
気象台路
・気象台路とは
・天津歯科診療事情
・天塔湖


遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。天津マドモアゼルこと、けようです。今年はマダムになるかもなんて噂も一部では報じられているみたいですがそんなことはさておきまして、2005年1月5日、天津は大雪となりました。と言っても5センチほど積もった程度なんですが。北京よりも北方に位置する天津の冬は連日氷点下の寒さが続くものの大陸性の乾燥した気候のためか降雪はほとんどありません。あったとしても1年に1度あるかないか。雪が積もるなどほとんど奇跡に近いのです。それが年明け早々の5日は夕方から白い雪がしんしんと降り始め、日没には辺り一面銀世界となりました。気温が低いためたかだか5センチ程度の雪でもなかなか融けません。3、4日経っても、夏利(シャーリー)や桑塔納(サンタナ)が撒き散らす黒い排ガスを浴びながら、まるで日々マドモアゼルを悩ませている宿便のように道の隅っこにしぶとく黒い塊となって残っています。そんな残雪を横目に見ながら、今月もそぞろ歩いてきました。第18回目は「気象台路」です。


自宅の窓から撮影した雪の日の天津

気象台路とは

気象台路は衛津路の東側に並行して南北に伸びている通りで、北は新興路と営口道との交差点に始まり、南は紫金山路を境に少し西へ反れて衛津南路と交わっています。特別大きな通りでもなく、また近くに有名な建物があるわけでもありませんが、天津きっての繁華街・南京路につながる営口道と、天津一の観光名所・天塔(天津タワー)を結んでいるので、この通りの名前を知らなくてもタクシーやバスで何度も通過したことがあるという日本人の方は大勢いらっしゃるのではないかと思います。

気象台路の北半分、つまり新興路との交差点付近から気象台路の真中を横切る「津河」あたりまでは古い赤煉瓦のアパートが建ち並ぶ静かな住宅街で、歩道には街路樹が間隔をおいて植えられ、平垣にはツタがからまり、以前にご紹介した馬場道(Root No.7)には及ばないまでもなかなかの情趣を感じさせてくれます。アパートの1階はテナントになっている場合が多くて、駄菓子屋さんから保健用品屋さん、不動産仲介業者などなどいろいろな店が並んでおり、わたしのような外国人にとっては、それを眺めているだけでもおもしろいです。

それに対して気象台路の南半分、つまり津河から衛津南路までの間には、「明鍋貼餃子」「庄媽媽美食城」といった地元っ子に人気の中華レストランや「家世界」という大型ホームセンター(その1階にはスターバックスも)などが建っていて、にぎやかな雰囲気が溢れています。なお、「家世界」の南側、気象台路と紫金山路の交差点の北西の角には、「天津市気象局」があります。ひょっとしたら気象台路という名前の由来はそこから来ているのではないでしょうか。


歩行者をまったく無視して植えられている街路樹
歩きにくいったらありません


真っ赤な看板で人目を引くテナントたち
中央の店は育毛サロンでしょうか?


近年天津で急激に増殖している「家世界」
ここへ行けば生活に必要なものが大抵揃います


天津市気象局


津河に架かる「気象台路橋」


橋の上から見た津河はカチンコチンに凍っています
よく見ると、氷の上には人の足跡や自転車のタイヤの跡が


そして酸化して黒くなったバナナの皮も

天津歯科診療事情

気象台路橋から少し北へ行ったところに「天津医科大学口腔医院」があります。ただの大学病院の歯科なのですが、わたしにはここを素通りできないエピソードがあります。ちょっと古い話ですが。

あれはちょうど2年前の冬でした。食べだしたら止まらないピスタチオをポリポリと食べていたら、不意に左下奥歯の銀の被せ物がポロッと外れてしまいました。当然外れたところにはポッカリと大きな穴が空きました。すでに神経を抜いてあるので痛みが全くないのが幸いでしたが、何か食べるたびに穴に食べ物が詰まって具合が悪いわけです。かといって、歯の治療のためだけに緊急帰国するほどでもない。今でこそ天津にも日本人歯科医師による診療が受けられるクリニックがありますが、当時は北京まで行かなければならず、それもちょっと面倒くさい。知人に尋ねたところ、「天津医科大学口腔医院」なら衛生状態も医師の対応もよく、なおかつ治療費も安いとのこと。そこでわたしは意を決して「天津医科大学口腔医院」で応急処置をしてもらうことにしたのです。

まず入口を入ってすぐの窓口で受付と問診を済ませます。問診の結果、「○階の○室へ行くように」と指示されます。問診料(当時3元)を払ってから、指示された部屋へ行き、カルテを作成します。なお、ここでもカルテ代(当時1元)を支払います。このように何かにつけて費用を請求されるので歯科へ行く時は小銭は必携です。カルテを作ってから、診察室の前で治療の順番を待ちます。基本的には割り込みは許されず、順番通り治療してくれるようです。が、わたしが待っている間、虫歯が痛くてグズっている子どもを連れた母親が「これだけ子どもが痛がっているんだから早く診てもらえないか」ともの凄い剣幕で衛生士に詰め寄ってきて、無理矢理割り込んでいました。子どもの前では母は強しとは言いますが、自分勝手な母親が増えているのはどこの国もいっしょだなあと少々不愉快な気持ちになりつつわたしは大人しく自分の名前が呼ばれるのを待ち続けました。

1時間ほどして自分の番が来ました。わたしはいささか緊張しながら診察室に入り、衛生士の方にすすめられるまま、3台並んでいる診察台のうち真中の台の上に横になりました。診察台は見たところ日本の歯医者さんと同じようなもので、診察台の左側にはうがい用の台、右側には治療器具を置く台が設置してありました。かつて学生時代、歯科助手のアルバイトをしていた頃にそこの先生から「中国の歯科診療技術は日本より30年遅れている」と聞かされていたので一体どんな治療をされるんだろうと不安だったのですが、立派な診察台を一目見て不安が幾分やわらぎました。さすが大学病院、これなら安心して治療が受けられるかも…。

しばらくして、若くて優しそうな女の先生が現れました。わたしが念のためにと外れた銀の詰め物を見せると先生は「そんな高度なことはできないわよオホホ」と一笑。じゃあどんな治療をするのさ、とわたしの不安指数はぐんぐん上昇。しかし、先生は容赦なく奥歯の穴の空いた部分をギュイーンと削り始めました。それから何か軟らかいアマルガムのような灰色の詰め物を詰めてくれました。これで今回の治療は終了のようです。「さてうがいを」と起き上がって、わたしは愕然としました。うがい台にコップがないのです。しかも蛇口から水が出る気配すらありません。そして本来水が流れていくはずのタンクの部分には、前の患者のものであろう詰め物のかけらや血の混じっただ液が生々しくこびりついています。「どうしよう…」凍り付いているわたしの耳元で、先生は優しく囁きました。「吐きなさい」ええいままよとわたしはつばを吐き出しました。

「次はいつ来たらいいですか」てっきりこれは仮止めだと思っていたわたしが尋ねると、「もう来なくていいわよ、もし詰め物が外れたらカルテを持ってまた来なさい」と先生。わたしは渡されたカルテを手に「こんなんでいいのかあ?」となんとなく納得のいかないまま診療室を後にしました。ちなみにその時の治療代は50元。全額負担でこの金額ですから、日本に比べて格段に安いと言えます。

かくして天津歯科診療初体験を乗り越えちょっぴり大人になったわたし。その半年後に一時帰国してかかりつけの歯科医院で再治療を受けるまで、意外にも仮止めのような詰め物はしっかりと穴にフィットし、お役目を全うしてくれたのでした。日本の主治医はその詰め物の状態を見て「あらら…」と言っていましたが、治療の早さ、簡単さ、費用の安さを総合的に考えたら、天津医科大学での仮治療も決して悪くはないなあ、そんなふうに思いました。

天塔湖

さて気象台路の南の端は「天塔(天津タワー)」です。衛津路(Root No.6)の回でもご紹介しましたが、天塔の周囲は「天塔湖」という池になっています。この季節、天塔湖は天然のアイススケートリンクに変貌します。中には仲良くおててつないでスケートを楽しむ恋人たちもいますが、大抵目に止まるのは、一列に連なって片手を左右に振りながらしかもかなりのスピードで滑っているお年寄り集団。驚くべきことに、天津のお年寄りたちの健康法は太極拳でもゲートボールでもなく、スピードスケートなのです(やや誇張)。このほか、普段着に毛糸の帽子を着用しただけの軽装備でアイスホッケーの練習をしている命知らずの若者グループもいます。地元っ子は実に逞しいのです。


気象台路側から眺める黄昏時の天塔


この時期、周りの天塔湖は厚い氷に被われます


この立て札があるにもかかわらず
みんな平然と歩いたり自転車で走ったり


「津河」に向いてたそがれるあなたはもしや…
浦安に帰ったのではなかったのか?

「とんぱ復活」

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Illust & Text by KEYOU... http://keyou.at.infoseek.co.jp/

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