上海新天地
上海新天地
数日前、香港の邵氏兄弟（ショウ・ブラザーズ）が映画やTVB（テレビ局）などのスポンサーで作る正月映画「72家租客」（72組の間借り人たち）についての記者発表を香港で行った。「72家租客」は中国の文芸作品が好んで扱う題材で、大陸や香港では既に何度も舞台化、映画化、テレビ化されている。
「72家租客」は上海の石庫門で起こるエピソードだ。あちこちの地方からやってきた上海の弄堂で寝起きしている。「餅」売りの山東人、仕立て屋の蘇州人、クリーニング店を経営する寧波人、煙草売り、靴修理、歌手の卵、医者の卵…など、「72組の間借り人たち」が織り成す人間模様だ。
それでは石庫門とは一体どんな建物なのだろうか？
石庫門は上海の代表的な民家で、普通郵便切手第23組「中国民居」の上海民家図として採用されている（右図）。上海では石庫門を知らないというのは、北京で「四合院」を知らないといっているようなもので、ちょっと恥ずかしいことだ。
残念なのは、筆者も上海で長く仕事をしてきたが、石庫門についてあまり詳しくない。余りにも身近なものにはかえってあまり注意を向けないものではないだろうか？ということで、この機会に上海を代表する建築、石庫門について考えてみたい。
• 石庫門とはどんな建物なのか？なぜ「石庫門」というのだろうか？
石庫門は近代以降、上海市街地にもっともよく見られた長屋タイプの住宅の総称だ。旧弄堂にあるのはほとんどこの石庫門で、1870年初め、江南の住民が「三合院」（右図）を作り変えたものだ。三合院の部屋数は3または5で、中国の伝統建築を継承して中軸線から左右対称に配置しているのが特徴。またイギリスのアパートメントタイプをしており、多くは2階建てから4階建てくらいの住宅が長屋式にくっついている。
つまり、石庫門は中洋折衷の建築方式と言えるだろう。
石庫門という名前の由来について諸説あるが、一般的には「入り口に石の門があり、密閉された天井、高い塀、厚みのある門は倉庫のようだ」というところから来ているらしい。
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石庫門
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（1）赤レンガまたは黒レンガがよく利用される。
（2）典型的石庫門は、入り口を花崗岩で囲ってあり、石の門になっている。また銅で縁取りした黒漆の扉がついている。
（3）天井がある。客間、小部屋、中2階などの部屋がある。
（4）一般的には2階建てでレンガ造り、梁には木を使う。
（5）
長屋式で、まるで書棚のように見える。明治時代の日本の富岡製糸場を髣髴とさせる。
（6）
石庫門建築は「里」「坊」で呼ばれる。例：「永興里」「豊盛里」「和合坊」「余慶坊」。 |
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赤レンガ |
埠頭の防火壁 |
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| 門に施された花の彫刻 |
アーチ型の入り口 |
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| 沿道の2階建てベランダ |
天井 |
• かつてどのくらいの人たちが石庫門に住んでいたのだろうか？
石庫門建築が隆盛を迎えたのは1920年代になってからで、当時住民の4分の3以上が石庫門に住んでおり、現在でも上海市民の多くが1世紀以上の歴史をもつ石庫門に住んでいる。またこうも言える。80％以上の上海人が石庫門で生まれ育った。石庫門は上海人の過去を記憶しているのだ。
……この文章を書きながら、上海出身の70年代生まれの同僚（女性）に聞いてみた。
Q
石庫門に住んでたことある？
A
あるわよ。小学校3年生のとき（1986年）から高2まで足かけ10年ね。
Q
何家族が一緒に住んでた？
A
7，8家族かな。
Q
お隣さんとトラブルとかなかった？
A まさか。ご近所とはとても仲が良かったわ。私が子供のころはお年寄りを見ると「おじいさん」「おばあさん」って自分の祖父や祖母みたいに呼びかけていたわ。みんな私のことすごく可愛がってくれたしね。
Q 住環境ではどんなこと覚えてる？
A 特に悪いことはなかったわね。ただお風呂とトイレが面倒だったな。
Q その家は壊された？
A まだあるわよ。あそこの地域の人たちはとても頑固なの。もともと人口密集地だし、ディベロッパーもすごくがんばったみたいだけどね。それにあそこには劉海粟が作った上海美術専門学校の跡地があるから、保存もしなきゃならないわけ。
Q それどこ？機会があれば見に行くよ。……
A
盧湾区の、順昌路と永年路の交差点のあたりよ。
• なぜ上海で「石庫門」という建物が生まれたのだろうか？
1853年、上海で小刀会が決起し、1860年代初めに太平天国の軍隊が三度も上海に侵入したとき、戦乱によって域内の多くの人が安全な租界に引っ越してきた。江蘇省、浙江省一帯には金持ちも多く、家族を連れて上海租界に続々と入ってきた。租界に住んでいる中国人の住宅需要にこたえるために長屋風で簡単なつくりの「住宅販売」が始まった。その特徴は「大量に建て、分譲販売、または賃貸に出す」。これが最初の石庫門房子だ。1860年以降、この手の家が毎年数万件ずつ増えていった。
• 一番最初にできた石庫門 は？
清の時代の同治九年(1870年)、唐さんと言う人が現在の長寧路249弄66支弄（地図）に平屋を一棟建て「唐家の家」といわれた。これが上海で最初に立てられた石庫門住宅だ。
どこに行けば石庫門を見られるだろうか ？
上海で一番有名な石庫門はやはり新天地と田子坊だろう。両者はともに商業化に成功し、人々に知られるところとなった。
１．新天地
新天地北里：太倉路181弄
新天地南里：興業路123弄
新天地をぶらぶらするのは夕方以降がいい。夜の帳がおりて、バーに灯りがともると、石庫門房子の玄関と、つき出た2階のベランダがぼうっと照らし出され、クラシックでおしゃれな空間になる。
新天地の石庫門はほとんどが改築されたものか、外壁と屋根のみをそのままにして内部はすべて建てなおしたものだ。あるいはほとんど壊してしまって玄関口のところのみそのままにしているところもある。これには理由があって、石庫門建築は長年にわたってメンテナンスされなかったため、保存するにはある程度手を加える必要があったのだ。石庫門の当時の環境を重視し、ディベロッパーは資料館で当時フランスの建築家がサインした設計図を入手し、それをもとに古い建物を再現した。
専門家の中には、新天地はただ不動産開発の方法の一つに過ぎない、石庫門という貴重な遺産を保護しているとはいえない、と言う人もいる。しかし訪れる人の多くは（特に外国人は）新天地に来て上海の石庫門建築の存在を知るのだ。
