里弄(リーロン)の屋上に住んでいるというおじさんに連れられ、私は閉じられたドアの中へと足を踏み入れました。歩く度にきしむ、薄暗い木の階段を登ると、各階の踊り場にはそれぞれ別の住人が住む部屋があります。住人は各自好みのドアを取り付けているので、弄堂の内部は階毎に違った雰囲気をかもし出しています。
4階まで登った時、おじさんが「ここが俺の部屋だ。今は貸し出し中だけど」と教えてくれました。「そしてこっちが今住んでいる所」とおじさんが引き入れてくれたのは、屋上の限られたスペースに無理やり作った掘っ立て小屋でした。それは木切れを寄せ集めて建てた小屋で、中を覗くと小さなベッド、そしてテレビがぎゅうぎゅうに入っていました。こんな小さなスペースでベッドに横になり、犬を相手にテレビを見て過ごす生活があるなんて、赤レンガの外壁からは想像もできませんでした。
実はこの棟の1、2階には現代風に改装して、優雅に暮らしている家族がいました。そこのご主人に言わせると「里弄(リーロン)は非常に快適だよ。あの屋上のオヤジは自分の部屋を800元で人に貸して、自分は屋上の鳩小屋みたいなところに住んでいるんだ。面白いだろう?いろいろな生活様式を持った人々を受け入れてくれるのが里弄なんだよ。」
帰りにふと気が付くと弄堂の入り口から子供がじっと私を見つめていました。この何世代、何世帯もが一つの空間を共有する里弄、そこを歩く私は、何世代もの空間を旅する旅人になった気がしたのです。
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