「このまえね、うつってたよ時代劇に」
面的は黄塗りの軽ワゴン車です。その形がパンに似ているところから、パン(面包 mianbao)のタクシー(的士 dishi)と、その名が付けられたのは有名な話です。数年前までは北京でもたくさん走っていたのですが、排ガスの環境汚染がひどいことから追放され、今や北京では完全に姿を消してしまいました。その環境にやさしくない面的が、なぜだか天津では市民の根強い支持を受けて町中をブイブイ言わせながら走っています。面的は今となっては天津でしか見られない乗り物。天津の町を象徴するものの一つに面的を挙げてもよいでしょう。
あれはある雨の日のこと。傘を持っていなかった私は面的に乗り込みました。ところがその面的にはワイパーがありませんでした。雨でどんどん前方の視界が悪くなっていきます。前が見えないのにこのまま走り続けて大丈夫か?と私が心配していると、運転手は運転席の脇からおもむろに壊れたワイパーの部品を取り出し、窓から手を出してフロントガラスを拭き始めました。これぞ手動ワイパー。運転手は私の横で「これだから雨の日は運転したくねえんだ」とブツブツひとり言を言っています。文句を言う前に修理しろ。ジェットコースターよりもスリリングなドライブでした。それ以来私は、雨の日はワイパーを確かめてから乗車するようにしています。
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