天津そぞろある記02:エクスプロア天津
エクスプロア天津TOPページへ TOP連載TOPProfile & 目次
Root No.2
建国道
・旧イタリア租界
・中国オジさん

第2回は予告通り「建国道」です。建国道と言っても、天津に暮らしている日本人でこの道を知っている人は多くないと思います。地元天津っ子だって、知らない人のほうが多いのではないでしょうか。このように地味な通りですが、見るべきものはあるんです。それはかつてのイタリア租界が残した、アンティークな町並み。

旧イタリア租界

かつて天津に租界があったというのは有名な話です。19世紀半ば、イギリスが天津に租界を置いたのを皮切りに、アメリカ・フランス・ドイツ・日本・ロシア・ベルギー・イタリア・オーストリアが次々と租界を設け、第二次世界大戦終結の1945年まで自治を行っていました。

イタリア租界は1902年、天津市を縦断するように流れる「海河」左岸の、天津駅の西側一帯に置かれました。当時この地には赤レンガを基調としたイタリア建築が数多く建てられましたが、租界が姿を消してから半世紀以上たった今でも、その建築だけは昔の形をとどめ、租界時代の雰囲気を漂わせるアンティークな町並みを残しているのです。

建国道は、その旧イタリア租界の北端を東西に横切る街道です。東は天津駅裏手のバスターミナルから発し、西は天津随一の観光名所である古文化街の近くまで続きます。天津駅側の道沿いには、いかにも駅の周辺らしく招待所や旅館などがたくさんありにぎやかな町並みを呈していますが、西へ歩を進めるにつれて喧騒が消え、建物の背が低くなり、昔ながらの民家やゴチャゴチャとしたマーケットが目に付くようになります。そんな相反する2つの町並みのちょうど中間あたりに、旧イタリア領事館が静かに佇んでいます。

旧イタリア領事館は現在では、天津市河北区委員会の施設として市民に利用されています。私が訪れた時は頑丈な鉄格子の門が閉められていて、門の内側では、守衛らしきオジさんのほかに守衛らしくないオバちゃんたちが何をするともなく椅子に腰掛けて、かしましくおしゃべりをしていました。アンティークな建物と中国のオバちゃん。ごはんとチョコレートをいっしょに食べるくらいミスマッチな組み合わせです。

こうしたミスマッチな風景はなにも旧イタリア領事館に限ったことではありません。租界時代に建てられたイタリア建築物のほとんどは現在、天津人が住んだり、学校などの施設として利用されたりしており、赤レンガと中華なテイストが混在した独特な雰囲気を醸し出しています。

そのような風景を見ると、天津人の日常生活からイタリア建築だけが浮いているような感じを一瞬受けますが、それもしばらくたてば全く違和感がなくなってしまいます。古いイタリア租界を新しい天津が徐々に飲み込んでいるような感じ。と言うより、古いものを大事に残しながら発展しているのが今の新しい天津の姿だと言えるでしょう。


教育機関の施設として利用されている旧イタリア租界の建物(民生路)


パラソルが意外にイタリアンだったりする…(民生路)

「奥田・・・」

中国オジさん

私がアンティークな建物群を次々にカメラに収めていると、突然横で自転車が止まりました。年のころ47・8歳、ランニングに膝丈のパンツ、薄手のソックスに革靴という、中国ではスタンダードなオジさんです。その中国オジさんがわざわざ自転車から降りて「日本人だろ?」と声をかけてきました。

よく旅行のガイドブックなんかで、気安く声をかけてくる現地人は疑おう、などというアドバイスを見かけますが、オジさんはどこからどう見ても散歩帰りの平々凡々な一般市民にしか見えませんでした。あえて疑うなら、「平日の真昼間から仕事しないで何してるんだろう?」ということくらい。ですから私は気軽にオジさんの問いに応じてみました。これをきっかけにもっとディープな天津が垣間見られるかもしれない、そんなことを期待しながら。

するとオジさんは気をよくして、「兄弟はいるか?」「親父さんは何してる?」「家が恋しくないか?」などと気の赴くままに私を質問攻め。そして、「天津だったら“古文化街”へ行かにゃならん」と、古文化街までの道案内まで勝手に買って出てくれました。こうなったらオジさんにどこまでもついて行こう。私はオジさんと一緒に建国道を東へ歩きました。

ところが、古文化街の手前まで来たところで工事のため道が封鎖されていることに気付き、結局古文化街には辿り着けずじまい。オジさんは「残念だったな」と捨てゼリフを残して自転車で去って行き、私は折り返してもと来た道を歩き始めました。とんだ無駄足。でも、オジさんとのトークがおもしろかったのでよしとしましょう。

実はこのオジさんのような気さくでおしゃべり好きな人間が、天津にはたくさんいます。信号待ちをしている時や、スーパーで買い物している時など、すぐに誰かが声をかけてきます。「それ、どこで買うたん?」「ええなあ、それいくらやったん?」またはこちらが聞きもしないのに「それで5元は高いわー、買わんときー」などと気さくに話しかけてきます。関西弁に訳しましたが、まさに関西のオバちゃんのノリが天津にはあります。この気さくさが時としておせっかいに感じることもありますが、それがきっかけとなって会話がはずみ、楽しい交流ができるということもよくあります。見知らぬ人との交流が、天津の町にはゴロゴロ転がっています。そして、そんな出会いをした時に、この町に暮らして良かったなあ、と思うのです。

「元祖ヘソだし」

次回は「賓江道」を歩くつもりです。
back      next
Illust & Text by KEYOU... http://keyou.at.infoseek.co.jp/

[エクスプロア天津TOPページへ] [天津の観光地] [エクスプロア中国トラベル]

Copyright(C) since 1998 Shanghai Explorer