私がアンティークな建物群を次々にカメラに収めていると、突然横で自転車が止まりました。年のころ47・8歳、ランニングに膝丈のパンツ、薄手のソックスに革靴という、中国ではスタンダードなオジさんです。その中国オジさんがわざわざ自転車から降りて「日本人だろ?」と声をかけてきました。
よく旅行のガイドブックなんかで、気安く声をかけてくる現地人は疑おう、などというアドバイスを見かけますが、オジさんはどこからどう見ても散歩帰りの平々凡々な一般市民にしか見えませんでした。あえて疑うなら、「平日の真昼間から仕事しないで何してるんだろう?」ということくらい。ですから私は気軽にオジさんの問いに応じてみました。これをきっかけにもっとディープな天津が垣間見られるかもしれない、そんなことを期待しながら。
するとオジさんは気をよくして、「兄弟はいるか?」「親父さんは何してる?」「家が恋しくないか?」などと気の赴くままに私を質問攻め。そして、「天津だったら“古文化街”へ行かにゃならん」と、古文化街までの道案内まで勝手に買って出てくれました。こうなったらオジさんにどこまでもついて行こう。私はオジさんと一緒に建国道を東へ歩きました。
ところが、古文化街の手前まで来たところで工事のため道が封鎖されていることに気付き、結局古文化街には辿り着けずじまい。オジさんは「残念だったな」と捨てゼリフを残して自転車で去って行き、私は折り返してもと来た道を歩き始めました。とんだ無駄足。でも、オジさんとのトークがおもしろかったのでよしとしましょう。