万全道は、以前に紹介した鞍山道(Root
No.5)の西側に位置し、それと並行するように北東から南西に向かって伸びている通りです。北東の端は河北路と、南西の端は新興路と交わっています。地図で見ても非常に小さな通りであることが分かりますが、実際に歩いてみると道幅がもっと狭く感じます。ゴミゴミしていますが、古い町並みを残しているなかなか素敵な通りです。
天津市内の多くの通りとその通り沿いの建物が開発の名のもとに拆(ちゃい)され、つまり、取り壊されて、その代わりに幅の広い道路が敷かれ、その両脇には真新しい建物が建てられています。かつては大きなポプラの並木があってこの季節になると道の両脇に大きな葉っぱがたくさん落ちていたあの通りも、羊肉串(シシカバブ)の露店が建ち並び朝から晩まで串を焼く白い煙が立ち込めていたあの通りも、今は全部同じ道幅に舗装され、白色やら薄ピンク色やらの無表情な高層建物がつんとすましたように立っています。景観が整然となり、交通渋滞も緩和され、便利になっていることは確かですが、どの通りも特徴がなく、同じような風景になってしまっています。長い歴史によってつくられたその道の表情・個性をもっと大事にしてほしい、そんなふうに思うことしばしばです。
その点、万全道はとても表情豊かな個性のある通りです。古き良き中国、天津の雰囲気をそのまま残していると言えます。なおこの通りは、終戦前までは日本租界のほぼ中心に位置しており、当時租界に住んでいた日本人は「伏見街」と呼んでいたそうです。